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開催状況不明
2008年度国際シンポジウム「中国をめぐる開発と和諧社会」を開催しました
- 開催日時
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愛知大学国際中国学研究センター(以下、ICCS)は2008年12月5日(金)~7日(日)の三日間にわたって、国内外から36名の討論者をお招きし、「中国をめぐる開発と和諧社会」をテーマに、1日目約180名、2日目210名、三日目約110名、合計500名という多数の参加者を迎え、国際シンポジウムを愛知大学車道校舎で開催した。今回のシンポジウムは、昨今の厳しい国際環境の下で和諧社会を目指す中国が抱える多様な課題について、 ICCSの招聘した国内外の中国研究者が、経済・環境・政治・文化の各セッションに分かれて、「開発と人間」その位置付け、あり方、問題点などについて徹底的に議論を行い、その成果を広く社会に発信しようという趣旨のもとで行った。
1日目:
・開会挨拶:佐藤元彦愛知大学長
・シンポジウム開催の趣旨説明:高橋五郎ICCS所長
・基調講演:Jack w. Hou氏(California State University at Long Beach、前アメリカ中国経済学会会長)
Jack w. Hou教授は、中国の経済成長の評価と今後の見通しについて、豊富なデータを元にその概要を示した。中国は、ロシアなど他の移行国に比べて成長の余地が大きく、現在の外貨準備残高、資本規制制度、財政余力などの面で健全であり、資源利用の効率化と適切な内需刺激策が実施されれば、不況下においても持続的な経済成長は可能であると分析した。その一方で、様々な社会問題が生起し、困難な局面にある点も指摘された。
・総合セッション:
座 長:高橋五郎 (愛知大学)
パネリスト:川井伸一 (愛知大学)
Lu Ding (University of Fraser Valley)
藤田佳久 (愛知大学)
宋献方 (中国科学院地理学与資源研究所)
加々美光行(愛知大学)
許紀霖 (華東師範大学)
周星 (愛知大学)
張海洋 (中央民族大学)
総合セッションでは、上記8名のパネリストが参加した。各パネリストは、それぞれ専門の立場から、和諧社会の実現可能性および「和諧」という言葉の定義とその評価、対象範囲、開発との関連性などについて報告を行った。総合セッションは、その後のシンポジウムの基本的な論点を提起するなど、フロアーと一体となって、活発な討論を行った。
2日目:
・経済セッション
座 長:高橋五郎 (愛知大学)
報 告 者:呉暁波 (浙江大学)
Lu Ding (University of Fraser Valley)
厳善平 (桃山学院大学)
高橋五郎 (愛知大学)
田中英式 (愛知大学)
山本一巳 (愛知大学)
コメント:川井伸一 (愛知大学)
李春利 (愛知大学)
討 論 者:Jack w. Hou (California State University at Long Beach)
和諧社会の経済的側面について、上記6名の報告者が様々な角度から報告が行われた。不断の経済改革によって中国は経済成長を達成したという点では見解は一致を見ているが、今後については、市場経済の更なる拡大と政府による調整の度合いをめぐって議論となった。また、政治との関係についても指摘が相次ぎ、和諧社会の実現のためには、農業合作社など新たな社会組織の興隆とともに、環境や格差解消に配慮した経済成長至上主義からの脱却もまた必要とされているとの指摘も行われた。とくに、高橋五郎教授は、中国が自由な競争社会システムに移行する中で「支配者」に富や権力が集中したことが「和諧」を阻害する要因であり、これを是正するために「協同」という概念を中心に据えた社会の構築が必要である、と指摘した。
・環境セッション
座 長:藤田佳久 (愛知大学)
報 告 者:宋献方 (中国科学院地理科学与資源研究所)
孫発平 (青海省社会科学院)
朱安新 (南京大学)
一ノ瀬俊明(国立環境研究所)
コメント:宮沢哲男 (愛知大学)
藤田佳久 (愛知大学)
今日では解決すべき喫緊の課題となった環境問題について、上記4名の報告者によって実態面を中心に報告された。経済成長は、環境問題を放置することで達成されている側面があり、経済成長至上主義がこれをより深刻なものにしている点が指摘された。その解決には政治的運動が必要であり、NGOや住民組織である「社区」がその担い手として期待できる点が示された。
・政治セッション
座 長:加々美光行(愛知大学)
報 告 者:金観濤 (政治大学)
劉青峰 (香港中文大学名誉研究員)
許紀霖 (華東師範大学)
張玉林 (南京大学)
毛里和子 (早稲田大学)
加々美光行(愛知大学)
コメント:臧志軍 (復旦大学)
張琢 (愛知大学)
政治セッションでは、上記6名の報告をもとに、和諧という言葉の定義とそのあり方について、とくに「誰にとっての和諧か」という論点を中心に議論が行われた。その中で、少数民族問題や環境問題の改善には、その対象となる住民の参加が必要であり、これを政治に反映させる民主的なシステムが求められているとの指摘がなされた。 この中で、毛利和子教授は中国研究の在り方に言及され、中国的方法による中国研究よりも東アジア的な視点からの研究の重要性を指摘された。また、加々美光行教授からは、現在の中国を取り巻く矛盾の多くは、1990年代以降の「開発政治」惹起されており、これを克服することが重要という提起が行われた。
3日目
・文化セッション
座 長:周星(愛知大学)
報 告 者:王処輝 (南開大学)
張海洋 (中央民族大学)
方李莉 (中国芸術研究院)
山下晋司(東京大学)
上田信 (立教大学)
園田茂人(早稲田大学)
コメント:馬場毅 (愛知大学)
高明潔 (愛知大学)
文化セッションでは、上記6名の報告者によって、少数民族の現状と中国の文化の多元性について、豊富な現地調査を中心とした報告が行われた。少数民族が文化資源を多く所有しているが、漢民族を主とした中国に包摂されていく過程の中で、それらが失われたり変容したりしてきており、その結果生み出される階層意識と経済合理性が、中国を覆っている諸問題の根源にあるという点が鋭く指摘された。
・ICCS研究員報告
座 長:李春利 (愛知大学)
報 告 者:秋山知宏 (愛知大学)
宇都宮浩一(愛知大学)
李佳 (愛知大学)
ICCSの若手研究員が、各自の研究内容について報告を行った。ICCSでは、次代の中国研究を担う若手研究者の育成に力を入れており、国際シンポジウムで報告する機会を与えることで自身の研究水準の向上を促すことを目的としたものであり、フロアーの注目を集めるなどの成果が得られた。
・総括セッション
座 長:高橋五郎(愛知大学)
総括セッションでは、各セッションで提起された問題が総合的に議論された。その中心論点は、「和諧」がだれのためのだれによるものなのか、その主体の在り方について座長から問題提起が行われ活発な討論が行われた。この関連から「和諧」の定義にこだわることの意味の希薄さがあらためて問われ、形式的・統一的な整理はあえて行わない方が適切という意見が多かった。 これに加えて、外部からの多数の参加者からは、今後の ICCS活動に対して、中国を研究対象とする日本の研究機関としてフィールドワークを中心に積極的に現実に関わっていく研究スタイルの確立と、国際的ネットワークを重視した活動のいっそうの充実を図ることを期待する声が多数寄せられた。
・閉会の挨拶:ICCS加々美光行教授
今回の国際シンポジウムで行われた議論の詳細については、2008年度中に発行予定の『2008年度ICCS国際シンポジウム報告書:中国をめぐる開発と和諧社会』(仮称)をご覧いただきたい。入手をご希望の方は、ICCS事務室までご連絡いただきたい。また、シンポジウムの内容の一部については、当サイト上でも公開を予定している。