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若手研究会

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第52回研究会

第一報告

  • 深串 徹(ICCS研究員):雷震と戦後日本-ある外省籍知識人の日本認識-

第二報告

  • 黄 潔(ICCS研究員):中国華南少数民族トン族の憑霊信仰に関する研究

報告1:深串 徹(ICCS研究員)
テーマ:雷震と戦後日本-ある外省籍知識人の日本認識-

 本報告は、戦後台湾を代表する自由主義的な知識人の一人であり、かつ日本留学の経験のあった雷震の戦後日本との関わり、および日本に対する認識を検討した。
 日本との文化・経済交流を促進する団体である中日文化経済協会の結成や運営に参加するなど、雷震は台湾移転後も日本問題に強い関心を抱いていた。日本の経済人、新聞記者、旧軍人、外交官などと幅広く交流していたが、歴史修正主義的な論者に対しては強い反発を示すこともあった。中華民国政府は日本の右派よりも、先進的で民主的な人々と関係を構築するべきと考えていたが、国民党政権と対立関係に陥ったこともあり、その提言が実を結ぶことはなかった。1950年代末以降、雷震は中華民国の現状を批判する目的で、日本人の国民性や民主化の達成度を肯定的に評価する言説を多数残すようになる。彼にとって日本は、国策を考える際の最も重要な参照基準であった。
 報告に対しては、討論者の周星先生から日本留学時代の思想形成の詳細や、雷震を「知日派」と呼ぶことの妥当性などについてコメントを頂いた。その他、参加者からは本省人知識人との比較や、史料として日記を扱う際の注意点、報告タイトルなどについて提言を頂いた。



報告2:黄 潔(ICCS研究員)
テーマ:中国華南少数民族トン族の憑霊信仰に関する研究

 本発表は、中国華南少数民族トン族のメェチュイと呼ばれる憑霊現象に関する人類学的研究である。チュイというトン族の民俗語彙は、狭義では鬼(キ)を意味するが、広義では精霊全般を意味する。従来の研究は、主にチュイ(キ)が他人に悪い事態を引き起こすといったマイナスの面に着目し、メェチュイの家系との交際・通婚忌避が行われるトン族の民俗社会の状況を論じてきた。しかしメェチュイ現象は憑きものに関与するとは限らない。そこで、本発表では日本民俗学の知見を参考し、トン族の憑霊信仰研究を捉え直すことを試みた。具体的には、ベエマ(白馬)やチャイノンチェン(山兄弟)などのメェチュイ現象に関する語りの分析により、現地の信仰体系と世界観を背景とし、また人間や動物に憑かれ加害できる病因観に基づいた、トン族の霊物のかなり数多くの存在、そして日常生活において、周りにいるそれらの精霊は人々とともに生きることを明らかにした。
 発表後、周星先生より本発表のテーマに関して、「面白いが難しい」という感想を述べた後、次のような指摘がされている。すなわち1)蠱毒に関する中国側の先行研究を補足する必要がある。2)白馬や山兄弟(山魈)といった2つの事例をとりあげた理由を、もう少し検証・説明する必要がある。3)民俗語彙と分析概念の区別がはっきりしなく、トン族言葉同士の使用も無理していることがあるため、最初からその差異を説明する必要がある。4)小さい村世界において、嫁として村に入ってきた女性のパワーと恐れについて、解釈できるモデルは「替罪羊」や「内部の他者」、霊や鬼(キ)のメカニズムなどの理論が参考できる。4)語りは、個別な人間の気持ちが入り込んで、経験性や境界性があることを念頭に置かないといけない。そのため、もっと多量や複数、蓄積した語りが必要だけでなく、経験者も村内/村外などのカテゴリーで分類した方が良い。金湛先生よりは論文としてまとめる際にどのように研究の意義をうまく伝えるかについて意見を述べた。例えば、論文タイトルの一部である「憑霊信仰の一側面」を「憑霊信仰の有用性」に変えると指摘し、対象である2つの憑き現象の調査地においての位置づけなどを明確に説明すれば良いと指摘した。以上のコメントと意見を踏まえながら、論文修正を進んでいきたいと思っている。


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