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若手研究会

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第54回研究会

第一報告

  • 徐天堯(ICCS研究員):ダイナミック・ケイパビリティ論における「ランドマーク農産物ブランドの若返り」に関する研究 ー 中国江蘇省鎮江市の「恒順香酢」の事例分析を中心に ー

第二報告

  • 金京(ICCS研究員):多文化社会アイスランドにおける中国人移民の適応のリアリティー

第三報告

  • 衛娣(ICCS研究員):中国における技術移転戦略の変容 ー 「一帯一路」を巡り ー


報告1:徐天堯(ICCS研究員)
テーマ:ダイナミック・ケイパビリティ論における「ランドマーク農産物ブランドの若返り」に関する研究
ー 中国江蘇省鎮江市の「恒順香酢」の事例分析を中心に ー

 本報告は、ランドマーク農産物ブランドの単一の製品種類や地理的制限、製品の老朽化、潜在的な消費者の不足、新興ブランドとの競争などの問題を克服するために、ダイナミック・ケイパビリティ論の観点から、ランドマーク農産物の若返りの実現過程を分析する。
 結論として、①中国のランドマーク農産物ブランドの発展は、地域の竜頭企業のブランドに依存し、当該地域の自然、歴史、伝統に根ざす「地域らしさ」を表しながら、時代の流れに沿ってブランドの若返りを追求しているプロセスである。②このプロセスをうまく進めるために、地域の竜頭企業は、原材料のサプライヤー、伝統的な卸売業者とEC企業、新興のコミュニティEC企業、外食企業、コンテンツマーケティング企業、さらに他業界の企業が含まれるビジネス・エコシステムの中で、全体の価値を結び付けていることが必要である。③強いダイナミック・ケイパビリティは、ブランド自体の若さを保つのに役立つ。ブランドの若返りのメカニズムは、ブランド価値の若返り、製品の若返りを促進し、ビジネスモデルの若返りに構成される。
 ディスカッション・タイムで、郭先生(コメンテーター)、劉先生、高先生から貴重なコメント・質問がなされ、活発な議論が交わされた。まず、郭先生から、論点を証明するための諸データ(企業経営活動に関する)の不足を指摘された。次に、劉先生から、中国の「醋」を表記する際に、中国漢字の「醋」のままで引用するほうがいい、という日中通訳上のアドバイスを頂いた。また、劉先生は、「ブランドの若返り(若年化)」という言葉の有効性に関する質問を受けた。最後、高先生から、論文の仮説と結論の不統一など、いい論文の書き方に関する助言を頂いた。
 以上のことから、今回開催した若手研究会では参加の皆様から、幅広い方面で御教示をいただき、大変有意義な時間を過ごすことができた。特に高先生から頂いた助言は、「醍醐灌顶」と感じられた。よって、今回の発表は、これからの論文の修正にも大変役に立つと考えられる。


報告2:金京(ICCS研究員)
テーマ:多文化社会アイスランドにおける中国人移民の適応のリアリティー

 本報告では、移民の増加に伴うアイスランド社会の変容と、その変容の過程において中国人移民の現状について検討した。発表の内容は大きく四つの部分に分けられる。
 第一部分では、アイスランド社会の概要を紹介し、時間軸と統計データを活かして、均質的な社会から多文化化社会へ移行している現状を提示した。第二部分では、移民の受け入れ、そして移民の定着に伴う諸制度、特に移民の統合に関する政策の目標と現状とのギャップを提示し、移民が直面している問題を紹介した。第三部分では、労働市場における移民の参加状況、そして職業分布などの統計データを見せつけることで、労働市場における移民の位置づけ、そして移民を専門職市場から排除するような構造を説明した。第四部分では、労働市場における中国人移民に着目せいて、彼らがいかなる戦略を立てて、労働市場のセグメント化による排除の構造を乗り越えているのかについて分析し、その結果を提示した。
 報告後、コメンテーターの高明潔先生と劉柏林から、歴史経緯の説明不足や学術用語の使い方の注意、分析のまとめ方などについて、ご指摘をいただきました。今後は、先生たちからいただいた貴重なコメントに基づいて、引き続き論文の修正を進めて参りたいと考えております。


報告3:衛娣(ICCS研究員)
テーマ:中国における技術移転戦略の変容 ー 「一帯一路」を巡り ー

 本報告は、中国における技術移転の構造的変容を示すことを目的とした。
 従来の研究では、「改革開放」後、中国技術発展の初期段階では、「市場を以て技術と交換する」という方針で、合弁事業を中心に先進国から技術移転を行ってきたことを検証した。この段階の技術移転は、「中国―先進国」の二者間ゲーム(博奕)である。
 これに対し、中国技術発展の現段階では、「一帯一路」政策を巡って、中国企業が施工しているインフラプロジェクトを通じて、中国の技術を海外(アフリカ)へ移転して行くことになっている。そこで、本報告では、CHECがカメルーンに展開した事業を例として、中国がアフリカへ技術移転は、主にインフラプロジェクト建設中の実践的学習と現地管理者の育成に関する技能研修を通じたものである。特に、①建設工学の理論知識と施工技術、②大型機械・設備の操作、維持、③経営管理、または貿易関係の交渉スキル、を重点に置いて技術の移転が行った。しかし、インフラプロジェクト建設する際に、建設標準が中国標準からフランス標準へ変更するといった要請があった。こういったトラブルの発生は、単なる標準選択の問題だけではなく、歴史に残された課題(旧宗主国と旧植民地国の支配関係)にも関わりがある。さらに、フランス企業をはじめとして、中国企業との合作・共同運営などのことも存在している。このように、「一帯一路」を巡って、中国からアフリカへの技術移転は、当初中国技術発展初期段階の技術移転と違って、「中国―アフリカ諸国―先進国」といった三者間のゲーム(博奕)に変わったという結論を付けた。
 報告に対して、討論者の劉柏林先生からテーマと問題意識がとても良いという感想を述べ。ただ、「もう少しい掘り下げる必要がある」と指摘した。具体的には、1)政策名と技術内容をはっきり区分する必要がある、表示不明確で、誤解されやすい。2)重要なデータは、口頭だけではなく、文字で提示すべである。3)60年代という早い段階で、「坦賛鉄道」などの失敗例を教訓して、これからの「一帯一路」という中国の新しい戦略を出すことに参考になるのではないか、と指摘された。さらに、高明潔先生から、テーマについてもっとストレートでポイントを示す必要があると指摘した。以上のコメントと意見を踏まえながら、研究を進んでいきたいと思っている。


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文部科学省「21世紀COEプログラム」によって設立された愛知大学国際中国学研究センター(International Center for Chinese Studies:略称ICCS)は、本学大学院中国研究科博士課程を中核に、海外から招聘する世界レベルの学者を含む現代中国研究の国際的な研究・教育機関として、活動を行っております。

ICCSの研究における究極的目標は、伝統的な「中国学(Sinology)」にとどまらず、新たな学問分野として「現代中国学(Modern Sinology)」の構築に向けた努力を継続することにあります。これは日本発の世界的な取組みとなるでしょう。私たちは日本国内、中国をはじめとする世界の優れた仲間たちと、このための研究を進めています。

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